機関誌 JIMSTEF NewsVol 8, No.1-2

機関誌 JIMSTEF NewsVol 8, No.1-2
巻 頭 言

社団法人国際海洋科学技術協会
会 長  寺 本 俊 彦

 海が地球表面積の約2/3を占めていることはよく知られている。我々人類が、残りの1/3を占
める陸上に生息していることは言うまでもない。人々の関心が、海よりは生息している陸上へ
より強く引きつけられるのは致し方がない。しかし、最近、海への関心が急速に増大してきてい
る。これは、世界人口が今や64億人をも越すに至り、海をも含めた全地表面に目を配らなけ
れば、生き永らえていくことが不可能であると改めて思い知らされたことによる。

 動植物全てを含めた地球上の生き物が食物連鎖ピラミッドを形成していることは、よく知られ
ている。すなわち、その最下段を緑色植物が占め、その上に食植動物が、さらにその上にこの
動物を食する食動動物が、そしてその上に植物、動物の双方を食する雑食、動物が位置を占
めている。人類もこれに含まれる。このピラミッドの各段が、そのすぐ下段の生物の生産量の1
/10以上を食すると、ピラミッドは崩壊するとされる。

 人類は一人平均、1年に、穀物換算にして350 kgの食物を消費する。世界人口を60億人とす
ると、その食物消費量は21億トンに達する。4段構成のピラミッドの最上段の一部を占めるに
過ぎぬ人類だけを取り上げても、その生存を保つためには最下段の緑色植物は、この消費量
の1,000倍、すなわち年間2兆1,000億トンの生産量を保たなければならない。ところで、緑色植
物の生産量は、地表に入射する太陽光の強さによって支配される。これより光合成過程を経
て生産される緑色植物の年間生産量は、陸域については1,175億トン、海域では550億トン、合
計1,725億トンと見積もられる。これは、上述した必要量の10万分の一にも達しない。この結果
としてピラミッドは次第に崩壊しつつあり、自然界においては動植物の絶滅が相次いでいる。
世界人口を多くても現在の1/10に減らさなければならない。このためには、今後少なくとも1世
紀(100年)にわたって「一人っ子」政策をとっていかなければならない。

 過渡的な今後の一世紀を生き抜くためには、海、陸での生産を増やさなければならない。開
発の進んでいる陸上よりも、海での可能性の方が高いのではないかと、いま改めて真剣に研
究が進められている。漁業資源の観点のみならず、水資源、エネルギー資源の面からも、利
用がはかられつつある。人類が生き延びられるかどうか、まことにきわどい局面に立たされて
いる。